ツインクロス
「あれっ?」
そこには、沢山のファイルがぎっしりと箱一杯に詰め込まれていた。
「これ…アルバムかぁ…」
存在そのものさえ忘れかけていた数あるアルバムの中の一冊を手に取ると。雅耶は、懐かしさにパラパラとページをめくった。まだ記憶にもないような小さな頃のものから、懐かしい思い出に残るものまで様々な自分の写真が収められている。
「あっ!これっ冬樹と夏樹じゃん!懐かしいなーッ」
そこには、雅耶と一緒に戯れる幼なじみの冬樹と夏樹が写っていた。三人で撮られている写真は思いのほか沢山あって、まるで三人兄弟であるかのように一緒に遊んでいる姿が写されていた。
その時。
雅耶は、ハッとした。

(えっ…?)

突然脳裏に、昼間駅で見掛けた少年の姿が過ぎったのだ。
雅耶は、信じられないという顔で自分の口元を押さえた。

今、解った。
駅前で見た、あいつ…。

「気のせいなんかじゃー…なかったんだ…」

俺があいつを分からないなんて。
「ふゆ…き…」
写真の中、一緒に笑い合っている冬樹の顔を指で軽く触れた。
(間違いない。…あれは、冬樹だ…)
先程の少年と、思い出の中の冬樹の表情が重なる。
雅耶は、段ボール箱の中身を広げたままで、暫く呆然としていた。

(もしかして、この町に帰ってきたのか?)
雅耶は、思い立ったように立ち上がると自室の窓を開けた。丁度そこは冬樹の家に面している窓で、二階のベランダや庭が良く見えるのだ。
だが…。
(家には、戻ってなさそうだな…)
その様子は、ここ数年ずっと変わらない。
閉め切った雨戸。
伸び放題の草木。

変わらない…。
もう、あれから何年が過ぎたのだろう。
夏樹やおじさんとおばさんが亡くなってから…。


一人残された冬樹は、親戚の家へ行くことになった。

ザアザアと雨が降りしきる日。
玄関を開けると冬樹がずぶ濡れで立っていた。
「ふゆきっ!?どうしたんだよっ、こんなにびしょぬれで!」
慌てて掴んだその細い肩は、ずっと雨に打たれていたのか、びしょびしょに濡れて冷えきっていた。
冬樹と面と向かって会えたのは事故のあった空手の時以来で、十数日が経過していた。ちょこちょこと見掛ける事はあったのだが、事故の件で警察や親戚が出入りしていたり、報道関係の者がうろついていたりで、冬樹の周りは本当にバタバタと落ち着かなかった。
当然のことだが、会いたくても会いに行くことを許されずにいたので、随分と久しぶりに思えた。
久し振りに会った冬樹は、前よりも少し痩せた気がした。雨の中、傘も差さずにただ無言で立ち尽くしている姿は、妙に痛々しくて。
「とにかくウチに入れよっ。カゼひくー…」
そう言って雅耶が冬樹の腕を取り、家へと招き入れようとしたその時、その言葉を遮るように冬樹が口を開いた。
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