ツインクロス
「やめてくれっ」

気弱そうな眼鏡を掛けた男が、壁際で三人の男達に取り囲まれている。見た限りでは、皆高校生ぐらいだろうか。
「頼むから、暴力はやめてよっ」
眼鏡の男は小さなバッグを胸に抱え、逃げ腰で後ずさるが、二人の男がその後ろに回り込む。
「ハハハッ。なーに言ってんだよ、西田くんー。俺らは別に、お前をいじめようってんじゃないんだぜー?」
正面に立っている主犯格らしい男がワザとらしくおどけて言うと、
「そうそう」
後ろの二人も嫌な笑いを浮かべた。
次の瞬間、主犯格の男は、当たり前のように眼鏡の男の腕の中にあるバッグを力ずくで奪うと、その中から慣れたように財布を抜き取った。
「あっ」
「大人しく金さえ渡してくれればいいんだよッ。…いつも通りなッ」
そう言って、その財布を取ったことを誇示するように、財布を持った右手を上げてみせた。それを見た後ろの二人も満足げに、
「へへへ…そういうこった」
そう言って下品な笑いを浮かべた、その時。
男が持っていた右手から、財布は消えていた。後ろから素早い動作で奪われたのだ。

「なっ!?誰だッ!!」

主犯格の男が慌てて振り返ると。
そこには、涼しい顔をした少年が立っていた。


明らかにイジメの現場。
冬樹は、そういったものが大嫌いだった。
冬樹自身が小学校時代、よくいじめられる対象にされていたから…と、いうのもある。家族を失ったこと…それは、冬樹のせいでも何でもなかったが、子供達の間でのからかわれる要素としては、打って付けだった。
からかいがエスカレートしてくるとイジメになっていく。
そして、そういった類の者達は必ずしも一人ではなく、いつだって数人で連れ立ってやってくるのだ。

(3対1…か。卑怯な連中だ…)

思わず足を止めて眺めてしまっていた冬樹だったが、ひとりの男がお金を巻き上げようと財布を奪った時点で行動に出ていた。

「テメェ…やる気か?」
思わぬ隙に逆に財布を取られて、男は悔しそうに身体を震わせた。何より、その相手が自分より小さく線の細い少年だったのが、余計に男の気持ちを逆なでした。だが、主犯格らしい男は腕に自信は無いのか、ただ冬樹を睨みつけるだけだった。
「何だァてめぇはッ!!」
思わぬ邪魔が入って、残りの二人が前に出てくる。その際に、バッグを奪われた眼鏡の男は一人のゴツイ男に押し退けられ、壁にぶつかると地に倒れ込んだ。
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