ツインクロス
「くっ!!」
一人の男のパンチを掌に受けて、その腕を捻って封じているその隙に。
もう一人の男が、冬樹の背後から叩きつけるように両腕を振り下ろしてきた。

「あぶないッ冬樹!!」

その突然の声に目を見張った瞬間だった。
冬樹の背後にいた男が、ドカッという鈍い音とともに地に倒れ込んだ。

(え…?だ…誰…?)

足元に倒れ込んで気絶しているその男を見て、冬樹は驚愕した。一撃でやっつけたその鮮やかさは勿論のこと。

(今…確か、オレの名前…?)

その時。
「コラーッ!お前達!こんな所で何してるっ!!」
突然、パトロール中の警官が騒ぎを聞きつけたのかやって来た。
「ゲッ!おまわり!?」
「やべっ!!逃げろッ」
慌てて倒れている仲間を揺さぶり起こすと、男達はバタバタと逃げ出した。

そんな中、呆然と立ち尽くしていた冬樹は、
「こっちだっ」
突然、強引に腕を掴まれると、
「…えっ?」
そのまま手を引かれて、走り出した。
警官もいる手前、この場を離れた方が良いに決まっているのだが。

(ちょっ…ちょっと待て!!なんなんだ、この展開は…)

しっかりと握られた大きな手。
その手に引かれるままに全力疾走で、街中を駆け抜けてゆく。

(この人は、いったい…?)

誰なのだろう。

(カオがよく見えない…)

前を駆けるその後ろ姿は、自分の記憶にはないものだ。だが、土地勘のある人物なのだろう。的確に、迷うことなく何処かを目指しているようだった。

「ここまで来れば大丈夫だな」
駅前通りを抜け、静かな小さな公園へと辿り着くと、そこでやっと繋いだ手を解放された。訳の分からぬまま、手を引かれるまま、必死に走って来たものの、冬樹はすっかり息が上がってしまっていた。
(つっ…疲れた…。この人、かなり鍛えてるな…)
はぁはぁ…と、肩で息をしつつも何とか呼吸を整える。
(あれだけ走って、全然呼吸が乱れていない…)
その目の前の人物は、平然とした様子で周囲を見渡している。背が高い分、足の長さの違いもあるとは思うが。

(それにしても、この人…。何でオレのことを…?)

さっき、確かに呼ばれた名前…。
思いのほか緊張する。

(でも、まずは顔を見ないことには…)

そう思っていた矢先。
「冬樹…」
そう言って、目の前の人物は振り返った。

「お前、野崎冬樹だよな?」
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