ツインクロス
突然、感情を隠すかのように表情を消した冬樹の様子の変化に、直純はすぐに気が付いた。だが、
「まぁ…そんなことはどうでもいいが…」
そう言って、変わらず笑顔を向けながら話題の切り替えを試みようとした、その時だった。
「あっいたいた!!中山さーんっ!!」
その大きな声に、言葉は遮られてしまった。
二人が声のする方を振り返ると、公園に面した通りから直純に向かって手を振る一人の中年男性がいた。その男は、大げさな程に心底くたびれた顔をして、こちらに近付いて来た。
「もぉーっ!どこ行っちゃったかと思いましたよーっ。いきなりいなくなっちゃうんだからーッ」
「あぁ…ごめんごめんッ。忘れてた…」
直純は、頭を掻きながら苦笑いを浮かべている。どうやら、直純の知り合いだったようだ。
二人が話を始めたので、冬樹は邪魔にならないようにこの場をそっと離れようとした。が…、
「冬樹」
それに気付いた直純が、冬樹の背に声を掛けてきた。
「もっとゆっくり話をしたかったんだが、約束があるんだ」
「………」
冬樹は、何も言わずに直純を振り返る。目が合うと、
「また…今度な」
そう言って、優しい笑顔を向けてくる直純に。冬樹が小さく頭を下げると、それを見て直純は笑みを深くした。
「あと、これ…。お前のだろ?」
さっき拾ってきた…そう言って渡されたのは、先程まで持っていた求人雑誌だった。
(あ…すっかり忘れてた…)
あの路地で落としていたものを、逃げる際に咄嗟に拾ってきたのだろうか?
(さすが直純先生…。すばやい…)
心底、感心してしまう冬樹だった。
「あと、これも…」
そう言って、素早くペンを取り出すとサラサラと何かを書き出した。
「はい」
そう言って雑誌の上に乗せられたのは、小さな名刺だった。
「今度この近くで店をやることになったんだ。これは、俺の名刺…」
直純は軽くウインクすると、
「今度遊びにおいで」
そう言って、「またな」…と笑った。
直純と別れた後、冬樹はそのまま家へ帰ることにした。
再び、賑わっている繁華街を通り抜けていく。
(何だか、疲れたな…)
カツアゲの現場に首を突っ込んだのは自分だから、これは自業自得。仕方はないが…。
(まさか、直純先生に会うなんて…)
本当に驚きだった。
(この町に戻ってきた以上は、今日みたいなこともあるんだな…)
今更ながらに、改めてそれを実感する。嬉しいような、気まずいような…複雑な気持ちだった。
(でも、昔のようには戻れないから…)
冬樹は人混みの中、一人ひっそりと溜息をついた。
「まぁ…そんなことはどうでもいいが…」
そう言って、変わらず笑顔を向けながら話題の切り替えを試みようとした、その時だった。
「あっいたいた!!中山さーんっ!!」
その大きな声に、言葉は遮られてしまった。
二人が声のする方を振り返ると、公園に面した通りから直純に向かって手を振る一人の中年男性がいた。その男は、大げさな程に心底くたびれた顔をして、こちらに近付いて来た。
「もぉーっ!どこ行っちゃったかと思いましたよーっ。いきなりいなくなっちゃうんだからーッ」
「あぁ…ごめんごめんッ。忘れてた…」
直純は、頭を掻きながら苦笑いを浮かべている。どうやら、直純の知り合いだったようだ。
二人が話を始めたので、冬樹は邪魔にならないようにこの場をそっと離れようとした。が…、
「冬樹」
それに気付いた直純が、冬樹の背に声を掛けてきた。
「もっとゆっくり話をしたかったんだが、約束があるんだ」
「………」
冬樹は、何も言わずに直純を振り返る。目が合うと、
「また…今度な」
そう言って、優しい笑顔を向けてくる直純に。冬樹が小さく頭を下げると、それを見て直純は笑みを深くした。
「あと、これ…。お前のだろ?」
さっき拾ってきた…そう言って渡されたのは、先程まで持っていた求人雑誌だった。
(あ…すっかり忘れてた…)
あの路地で落としていたものを、逃げる際に咄嗟に拾ってきたのだろうか?
(さすが直純先生…。すばやい…)
心底、感心してしまう冬樹だった。
「あと、これも…」
そう言って、素早くペンを取り出すとサラサラと何かを書き出した。
「はい」
そう言って雑誌の上に乗せられたのは、小さな名刺だった。
「今度この近くで店をやることになったんだ。これは、俺の名刺…」
直純は軽くウインクすると、
「今度遊びにおいで」
そう言って、「またな」…と笑った。
直純と別れた後、冬樹はそのまま家へ帰ることにした。
再び、賑わっている繁華街を通り抜けていく。
(何だか、疲れたな…)
カツアゲの現場に首を突っ込んだのは自分だから、これは自業自得。仕方はないが…。
(まさか、直純先生に会うなんて…)
本当に驚きだった。
(この町に戻ってきた以上は、今日みたいなこともあるんだな…)
今更ながらに、改めてそれを実感する。嬉しいような、気まずいような…複雑な気持ちだった。
(でも、昔のようには戻れないから…)
冬樹は人混みの中、一人ひっそりと溜息をついた。