ツインクロス
車窓からの景色に視線を流しながら、真剣な表情を浮かべている雅耶の横顔に。一緒に後部座席に並んで座っていた冬樹は、静かに声を掛けた。

「雅耶…」
「…ん?」
「今まで、なっちゃんを守ってくれてたんだよね。ありがとう…」
そう礼を言うと、雅耶は困ったように眉を下げて苦笑いを浮かべた。
「いや…俺は、何もしてないよ。本当に最近まで、ずっとあいつがお前と入れ代わってたなんて知らなかったんだ。そんな可能性を考えたことさえなかった…。あいつの苦労を考えたら、もっと…早く気付いてやれていれば良かったって…。本当に後悔しかないよ」
心底悔やむように語る雅耶に、冬樹は微笑みを浮かべた。
「でも、なっちゃんは…きっと雅耶に気付いて貰えて嬉しかったと思うよ。一人で秘密を抱えるのは、きっと…苦しかっただろうから。なっちゃんの性格からして、自分からカミングアウトすることは考えられないし…」
「…確かに、な。でも…秘密を抱えて生きて来たのは、お前も同じだろう?」
言外に「お前は、どうだったんだ?」…と、雅耶の目が訴えていて、冬樹は苦笑した。
「僕は…。なっちゃんが苦しんでるのをずっと分かっていたんだ。…分かっていながらも、本当のことを言えずにいた。だから、一番酷いのは僕なんだ…」
そう言うと、冬樹は僅かに俯いてしまった。
そうして、寂しげに微笑みを浮かべる冬樹に。

(やっぱり…良く似てはいるけど、全然違うんだな…)

雅耶は改めて冬樹と夏樹の違いを感じていた。
(お前は、昔からそうだったよな…。いつだって自分は一歩後ろに下がって…)
怒りや悲しみをあまり表には出さない。
昔は、ただ本当に穏やかな奴なんだと思っていたけど、そんな奴は実際にはいないだろう。
今なら解る。
(お前は、そうやって昔から…全てを微笑みで隠していたんだろうな…)
それが冬樹らしいといえば、らしいのだが…。今でも変わらずにいることが、嬉しいような悲しいような、複雑な気持ちだった。

「何で…お前は、すぐに本当のことを夏樹に言えなかったんだ?今まで何処にいたのか聞いても良いか…?」
雅耶は、当然のように浮かんだ疑問を口にした。
冬樹と入れ替わったまま、ずっと男として生きて来た夏樹にも驚くが、何より冬樹は実際に事故に巻き込まれた筈なのだ。
そこで助かったのは勿論だとしても、流石に夏樹として生きて来たということはないだろうし。

「…うん…」

冬樹は微笑んで頷くと。
ゆっくりと、過去を振り返って話しだした。


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