ツインクロス
新たなスタートライン
「さて、と。奴等が集まって来る前に、俺達はそろそろ此処を退散しないとなっ」
並木が部屋の中を見渡して、爽やかに言った。

夏樹もそれにつられるように、視線を室内へと移す。
広い社長室内には、無残にも縄でぐるぐる巻きにされて動けない男達が十数人。勿論、神岡もその内の一人だった。最初に部屋内にいた者と、廊下の見張り。それ以外にも何処かに見張りがいたようで、それらの男達全てがこの部屋に集められていた。
皆が逃げられないようにしっかりと固められているが、その光景はあまりにも情けないというか、不謹慎にも思わず「クスッ」…と、笑みを誘われてしまうものであった。
(何だろ…。今時、縄でって…。レトロって言うか、漫画的と言うか…)
それをこっそり冬樹に耳打ちしたら、「ああ…。あれは、並木さんの趣味なんだ」…と、笑顔で返されてしまい、夏樹は思わず絶句してしまった。

さっき、部屋に乗り込んで来た時は、声を張り上げていたので気付かなかったが、改めて冬樹に紹介して貰ったこの並木という人物は、今日神岡の別荘から自分を助け出してくれた、あの警備員の男だった。
そして、立花製薬での事件の時も、警備員に扮する並木同様に自分を大倉から守ってくれたのが、冬樹だったことを知った。

自分の感じていた予感が当たっていたこと。そして、今迄も兄が見守っていてくれたことを知って、夏樹の心は温かくなった。

「でも…このまま放置しといて良いんですか?」
夏樹はいまいち状況が掴めず、並木に尋ねる。
すると…。
「ああ。後は警察がやってくれるからね」
当然のように笑って答えた並木に、夏樹は『?』を飛ばした。
「え…。並木さんって、警察の人じゃないんですか?」
「うーん…。いわゆる普通の警察とはちょっと違うんだな。国の機関である警察庁のもう一つ上の組織に属している…と言えば良いのかな。俺達は警察内の悪事にも対応出来るように、基本的に警察の奴等にも顔が割れてはいけないんだ」
「へー…。そんなのが、あるんだ…」
目を丸くして感心している夏樹に。
「だから、もう此処を出るよ。皆ついて来てね」
並木は、そう手短に声を掛けると歩き出した。

前を歩く並木と冬樹に続いて、雅耶と並んで後を追い掛けていた夏樹に、雅耶がこっそり教えてくれた。
「並木さんは、いわゆる『秘密警察』ってヤツらしいよ。日本にもそんな機関があったなんて、驚きだよな?」
その聞き慣れない言葉に目を丸くしながらも。

(ふゆちゃんは、どうしてそんな凄い人と行動を共にすることになったんだろう…。後で、色々な話…聞けるといいな…)

そう、兄の背中を見詰めた。


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