ツインクロス
最初は、見間違いかと思った。

自分の目を疑った。
また、自分の願望が見せた幻なのかも、と…。

だけど。

見間違える筈もない。
ずっと、ずっと…会いたいと、求めて止まなかった…自分の半身。

「…ふゆちゃ…」

呼び掛けた名前は、思いのほか掠れて小さなものだった。
だが、それに応えるようにその人物は、ふわりと微笑むと、こちらへ足を向けた。
ゆっくりと近付いて来るその人物を、夏樹は大きな瞳で呆然と見詰めていた。
雅耶は夏樹の横で、そんな二人の様子を静かに見守っている。

(…ほんとに…?ホントの、ふゆちゃん…?)

過去の…自分の知ってる兄とは違う。
昔は殆ど変らなかった背丈も、今は遠目に見ても分かる程、随分自分とは差があるようだった。
180センチを超える雅耶程ではないが、背が高く、その分手足も長い。
男の割に線は細い方ではあるが、それは自分とは全然違う、しっかり男の体格だった。

(でも、笑顔は…変わらないんだね…)

気付かぬうちに、涙が頬を伝っていた。


冬樹は、夏樹の傍まで来ると。
潤んだ大きな瞳で見上げてくるその愛しい存在に、そっと手を伸ばした。
そして、昔よくやったように、頭の上にそっと掌を乗せると優しく撫でた。

「…なっちゃん…。今まで…よく、頑張ったね…」

僅かに背を屈めて覗き込んでくる、その優しい笑顔に。


「ふゆちゃんっ!!」


夏樹は堪らなくなって、その胸に飛び込んだ。
「会いたかった…っ。ずっと、会って…謝りたかったんだっ。ごめんね…ふゆちゃん…。ごめんなさい…。オレのせいで、ふゆちゃんに…辛い思い…っ…」
泣きじゃくる夏樹をしっかりと抱き留めながら、冬樹は目を閉じた。
「なっちゃんは何も悪くないよ。僕こそ…ずっと、なっちゃんを一人にして…。本当にごめんね…」



既に逃げる気力も失くし、部屋の奥まで下がって呆然と佇んでいた神岡は、目の前で再会を喜び合っている兄妹を見詰めると驚きの表情で呟いた。
「どう、なっているんだ…?これは…いったい…。冬樹…くんが、二人…?」
そこに、並木がゆっくりと歩み寄って来る。
「アンタがずっとつけ狙ってたのは、冬樹ではなく妹の夏樹ちゃんの方だったのさ」
「な…に…?どういう…」
それでも、意味が良く理解出来ないでいる神岡に、並木は小さく溜息を吐くと、その無抵抗の身体を男達と同じように縄でぐるぐる巻きにした。

「意味は理解出来なくても、感動の再会なの位は解るだろ?あの子達は、これでやっと…あの忌まわしい事故の呪縛から解放されて、動き出すことが出来るんだ。…アンタが奪ったあの子らの両親は、もう…戻っては来ないけど、な」

その言葉に、神岡は。
自責の念が僅かながらにもあるのか、深く項垂れるのだった。


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