ツインクロス
その逮捕劇から、一週間後。

日曜日の昼下がり。
雅耶は部活を終えた足で家の最寄駅まで戻って来ると、暫く駅前の噴水広場で時間を潰していた。
駅側からの入口が正面に見えるベンチに腰掛けると、ある人物が現れるのを待つ。
良く晴れた空には小さな雲が僅かに浮かんでいるだけで、頭上からは燦々と日差しが降り注いでいたが、真夏のようなジリジリとした熱さは、もう無い。
つい先日まで続いていた暑さが嘘のように、季節は確実に秋へと移り変わりつつあった。
爽やかな風に吹かれながら、持っていた雑誌に何気なく目を通していると、不意に制服のポケットの携帯が震え、意識がそちらへと移る。
届いたメールを確認すると、雅耶はすぐに駅の方角へと目を向けた。
すると…。

待っていた人物が、広場に入って来るのが見えた。
きょろきょろと周囲を見渡していて、こちらには気付いていない様子なので、雅耶は立ち上がると軽く手を上げた。
すると、すぐに気付いて小走りに駆け寄って来る。
ほぼ一週間ぶりに見るその、はにかんだような笑顔に、思わず心が弾んでゆくのを雅耶は感じていた。



「ごめん、雅耶。結構待たせちゃったんじゃないか…?」

目の前まで来て、夏樹が申し訳なさそうに言った。
「いや、そうでもないよ。部活の帰りだし、時間的に丁度良かったからさ」
そう答えると、ベンチに置いてあったスポーツバッグを手に取った。
そうして、どちらからともなく自然に歩き始める。

「それより、お帰り。…で、どうだったんだ?」
「あ、うん。ただいま…。一応、無事…手続きは全部終えたんだ」
「…ってことは…」
「うん。無事、夏樹に…戻れた」
少し照れながらも、笑顔で見上げてくる夏樹に。

「ホントかっ?!やったなっ!おめでとうっ!!」

雅耶は立ち止まると、興奮気味に声を上げた。
その、思いのほか大きくなってしまった声に、思わず周囲の人々の注目を浴びてしまった二人だったが、そんなものを気に掛けている余裕は雅耶にはなかった。

これまでの八年間…、夏樹はずっと一人で苦しんできたのだ。
冬樹に対しての後悔の念は勿論のこと、周囲を偽り続けることへの罪悪感。そして、背徳感に。
誰にも打ち明けられず秘密をひた隠しにし、時には己を打ち消して…。
それらの苦痛から、これでやっと解放されるのだ。

再び、自分自身の道を歩んで行ける、スタートラインに立てたのだから。

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