ツインクロス
よくやったんだ。こーいうこと。
冬樹と夏樹は二卵性の双子。
性別さえ違うものの、まるで一卵性双生児のようにかなり似すぎていた為、両親でさえもうっかりすると間違えてしまうことが少なくなかった。それが面白くて、よく二人で入れ替わって騙したり、悪戯したりしたのだ。
玄関にひとり残された母親は、ひとつ小さな溜息をつくと。その後、仕方がないなという感じで優しく微笑みを浮かべると、リビングへと消えていった。
そんな光景をただ横で見ていた自分は、すっかり夢の中だと自覚しながらも、過去の懐かしい場面に浸っていた。
昔の夢を見ているんだ。
まだ若い母親と、双子の兄…冬樹。
そして自分…夏樹。
父親は普通の会社員で、彼もまた母親同様に年若く優しい人だった。
土曜・日曜は勿論のこと、平日でも忙しい時以外は早めに帰宅し、いつでも家族を大切に見守っていた。
平凡ではあるけれど、温かく幸せな家庭だった。
この頃は楽しかった。
この世に生まれた時から…何時、どんな時でも一緒に過ごしてきた冬樹。大好きな…大切な自分の分身。大好きな優しい両親。毎日が明るく幸せな日々。
ふゆちゃん…。
気が付くと辺りは真っ暗闇に包まれていた。
思わず、やっぱり夢だな…などと思ってしまう。
ふと横を向くと、今まで暗闇だったそこに、いきなり大きな鏡が現れた。一点の曇りもない、丁寧に磨き上げられたようなその鏡には、学生服を着た中学生位の一人の少年の姿が映し出されていた。中央で分けられた漆黒の少し長め前髪が、何処からか流れてくる風に吹かれてサラサラとなびいている。
その鏡の中の少年は、冷たい視線で自分を見据えていた。
「これがオレ…。今の…」
独りの呟きが、広い空間に響き渡る。
そう。そうなんだ。この姿は紛れもない自分自身。
ふと、鏡の中の少年の瞳が揺らいだ。
「オレは、野崎冬樹…なんだ」
手に力がこもる。
その瞬間、ガシャーンという大きな破壊音と共に、目の前の大きな鏡はあっという間に砕け散った。握りしめ、叩きつけた右拳からは、鮮血が糸状に幾つも伝って流れ落ち、その所々に小さな鏡の破片が突き刺さっていた。足元には破片がパラパラと散乱していたが、次第に床に吸い込まれるかのように消えて無くなってしまった。
そして、再びその空間には静寂が戻ってくる。
「オレは…」
床にがっくりと膝を付く。
「オレはどうしたらいいっ?」
半ば叫び声に近いその声は、空間に大きくこだまして、やがて闇の中へと消えていった。
冬樹と夏樹は二卵性の双子。
性別さえ違うものの、まるで一卵性双生児のようにかなり似すぎていた為、両親でさえもうっかりすると間違えてしまうことが少なくなかった。それが面白くて、よく二人で入れ替わって騙したり、悪戯したりしたのだ。
玄関にひとり残された母親は、ひとつ小さな溜息をつくと。その後、仕方がないなという感じで優しく微笑みを浮かべると、リビングへと消えていった。
そんな光景をただ横で見ていた自分は、すっかり夢の中だと自覚しながらも、過去の懐かしい場面に浸っていた。
昔の夢を見ているんだ。
まだ若い母親と、双子の兄…冬樹。
そして自分…夏樹。
父親は普通の会社員で、彼もまた母親同様に年若く優しい人だった。
土曜・日曜は勿論のこと、平日でも忙しい時以外は早めに帰宅し、いつでも家族を大切に見守っていた。
平凡ではあるけれど、温かく幸せな家庭だった。
この頃は楽しかった。
この世に生まれた時から…何時、どんな時でも一緒に過ごしてきた冬樹。大好きな…大切な自分の分身。大好きな優しい両親。毎日が明るく幸せな日々。
ふゆちゃん…。
気が付くと辺りは真っ暗闇に包まれていた。
思わず、やっぱり夢だな…などと思ってしまう。
ふと横を向くと、今まで暗闇だったそこに、いきなり大きな鏡が現れた。一点の曇りもない、丁寧に磨き上げられたようなその鏡には、学生服を着た中学生位の一人の少年の姿が映し出されていた。中央で分けられた漆黒の少し長め前髪が、何処からか流れてくる風に吹かれてサラサラとなびいている。
その鏡の中の少年は、冷たい視線で自分を見据えていた。
「これがオレ…。今の…」
独りの呟きが、広い空間に響き渡る。
そう。そうなんだ。この姿は紛れもない自分自身。
ふと、鏡の中の少年の瞳が揺らいだ。
「オレは、野崎冬樹…なんだ」
手に力がこもる。
その瞬間、ガシャーンという大きな破壊音と共に、目の前の大きな鏡はあっという間に砕け散った。握りしめ、叩きつけた右拳からは、鮮血が糸状に幾つも伝って流れ落ち、その所々に小さな鏡の破片が突き刺さっていた。足元には破片がパラパラと散乱していたが、次第に床に吸い込まれるかのように消えて無くなってしまった。
そして、再びその空間には静寂が戻ってくる。
「オレは…」
床にがっくりと膝を付く。
「オレはどうしたらいいっ?」
半ば叫び声に近いその声は、空間に大きくこだまして、やがて闇の中へと消えていった。