冷たいキスと獣の唸り~時間を巻き戻せたら~





「どういう事だ?」

 エミリは、聖呀の妻ーー伴侶だ。

 二年前に奇跡のように出会った。

 聖呀は待ち続けていた伴侶との出会いに、すぐ結婚する事を望んでいたが、エミリの両親を気にして一年の交際期間をもうけて結婚した。

 背は低めで、曲線美のあるセクシー美女というわけではないが、笑顔が可愛らしくて純粋な目をした女の子。

 唯一、堅物な聖呀を笑わせる事の出来るエミリの笑顔を思い浮かべると、瑞季は心配で仕方がなくなってきた。

「酷く具合が悪いんだ。食べた物はほとんど吐いちまうし、怠そうで見てられない……」

「落ち着けって、兄弟。アニカに電話して、お前の家に行くように言っておく。それと、今夜の仕事は代わりに行くよ」

 電話の向こう側で、頭を抱えているであろう情景がはっきりと思い浮かんでくる。

 しばらく沈黙が続いた。

 一瞬、相手が電話を切った事に気付かなかったのかと思ったが、スマートフォンを耳に当てたままマンションの階段を軽快に下りていると、掠れた聖呀の声が聞こえてきた。




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