無糖バニラ





中学3年生、初夏のことだった。


「おい、このは。いい加減、俺が迎えに来る前に起きろ」


のんきに気持ちよく自室のベッドで眠っていたあたしは、いつものごとく翼の声で目が覚めた。


「んー……、おはよう翼」

「全然お早くねーよ。大体、いっつもお前のせいで俺まで遅刻ギリギリだわ」


目をこすって、起き上がる。

今日もやっぱり甘い香りがする。

優しい幼なじみに甘えて、あたしは学校の日は毎日翼に目覚まし係を任せていた。


「早く着替えろ。ご飯食ってこい。俺は、お前の母ちゃんじゃねーんだぞ」

「ん……、翼はママよりママみたい」

「ふざけんな」

「いたっ」


パシッと頭を小突かれ、ようやくパッチりと覚醒した。

これが日常で、当たり前だった。
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