無糖バニラ
*
中学3年生、初夏のことだった。
「おい、このは。いい加減、俺が迎えに来る前に起きろ」
のんきに気持ちよく自室のベッドで眠っていたあたしは、いつものごとく翼の声で目が覚めた。
「んー……、おはよう翼」
「全然お早くねーよ。大体、いっつもお前のせいで俺まで遅刻ギリギリだわ」
目をこすって、起き上がる。
今日もやっぱり甘い香りがする。
優しい幼なじみに甘えて、あたしは学校の日は毎日翼に目覚まし係を任せていた。
「早く着替えろ。ご飯食ってこい。俺は、お前の母ちゃんじゃねーんだぞ」
「ん……、翼はママよりママみたい」
「ふざけんな」
「いたっ」
パシッと頭を小突かれ、ようやくパッチりと覚醒した。
これが日常で、当たり前だった。