無糖バニラ
昔は、結構勝手に上がり込むことが多かったこの家も、滅多に訪れることがなくなった今では不法侵入感がハンパない。

心の中で「ごめんなさい」をいくつも繰り返し、そっと階段を上がる。

この音で翼が起きてしまわないといいけど。


翼の部屋の前に立ち、深呼吸。

最後にこのドアを開けたのは、いつだっけ?


ドアノブに手をかけて、ゆっくり回すとカチャンッと軽い音がした。


「つ、翼……?」


恐る恐る顔を出すと、ベッドの上の寝顔が目に入った。

すぐそばにはボックスティッシュと、スポーツドリンク。

額の上には濡れたタオル。

鼻が詰まっているのか、苦しそうに口で呼吸を繰り返している。
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