プリズム!
「………」


愛美達に心配を掛けているのかも知れない。

そう思いつつも、夏樹は通話ボタンを押す手を思わず躊躇(ちゅうちょ)した。

今電話に出て、普通に会話出来る自信がない。


(雅耶…)


震え続ける携帯を手にしたまま暫く眺めていたが、いつまで経っても切れる様子がないそれに。

(何で…。オレのことなんか見限ってくれていいのに…)

再び溢れだした涙に、夏樹は携帯を握り締めた。




雅耶は焦っていた。

一般客の立ち入れない区域である廊下部分を早足で歩いて行く。

混み合っている場所なども一通り見て回ったのだが、夏樹の性格上独りでいるのなら賑わっている場所を避けるのではないかと思った。

そして、元この学校の生徒である夏樹なら、立ち入り禁止区域になっている場所であっても知り尽くしているのだから、こっそり入り込むこともあるのではないかと思ったのだ。

だが、夏樹の姿は何処にも見当たらない。

(どうして出ない?これだけ鳴らして気付かないっていうのは無いよな?()えて出ないのか…?)

怒っているか何かで、敢えて出ずにいるのならまだいい。

(いや、良くはないが…)

だが夏樹の場合、何かあって出られないのでは…?という心配の方がどうしても先立ってしまうのだ。


「…くそっ…」

鳴り続ける呼出し音に苛立ちを隠せず、雅耶が今一度電話を切って掛け直そうかと耳に当てた携帯を外し掛けた時。


『…はい…』


突然電話が繋がり、夏樹の小さな声が向こうから聞こえてきた。
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