プリズム!
「でもさ、奇跡は起きたんだ。こうして夏樹と一緒に来れた…。俺にとっては本当に夢みたいだよ。今朝は『夏樹をここに連れて来ることがプレゼントの一環』…みたいなことを言ったけど、実際は殆ど俺の自己満足なんだ」

そう笑うと。

「そんなことないよ」

と、僅かに瞳を潤ませながら夏樹も笑顔を見せた。

「ありがとね、雅耶。私…今日見たこの光景、ずっと忘れない」

じっ…とその瞳に、そして脳裏(のうり)に焼き付けるかのように前を見つめながら呟く夏樹に。

「これは造り物だけどさ…。本物の海は、いつか必ずちゃんと連れて行くから。待っててくれよな?」

その目の前の巨大水槽を見上げながら、雅耶は誓うように言葉を(つむ)いだ。



(これだけでも十分だよ…)

本当はそう言いたかったけれど、雅耶が思いのほか真剣な眼差しで前を向いていたから。

「うん…」

と、だけしか夏樹は言えなかった。


そうして二人、暫く無言でその目の前に広がる水中の世界を眺めていた。

どれだけ眺めていても飽きない程に、それは穏やかで美しい光景だった。

キラキラと(うろこ)が水の中で光を放ち、壮大な群れを成して泳ぐ魚たちを眺めながら…。

今も昔も変わらない、雅耶の優しさが堪らなく切なくて。

そして何より雅耶と、この時間(とき)を共有出来たことがとても嬉しかった。


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