夏を殺したクラムボン
音読が終わると、沢田は新たにわら半紙のプリントをカゴの中から出して生徒たちに配った。
「いくつか質問が書いてあるから、先入観なく答えてくれ。正解はないからな」
そう言って彼はアラームをセットする。
成海は飾り気のない筆箱から銀のシャープペンシルを探し、“質問”を読んだ。質問は全部で2つあり、一文ずつ文字を追う。
『1.クラムボンは何だと思いますか』
――殺されたよ。
周の声が脳裏に蘇り、成海は紙上でシャープペンシルを踊らせる。
『2.“クラムボンは殺されたよ”とは、どのような意味だと思いますか』
するすると詰まることなく考えを書き連ね、シャープペンシルを置いた成海は窓を背に座った。
成海の席からは無数に動くクラスメイトたちの手と、左手でシャープペンシルを握りしめたまま静止する周が見える。あまり馴染みのないその風景は、変化のない教室の中で浮いていた。
「クラムボンってあれじゃね?ほら、あれ」
浜田が声を潜めて成海に話しかけ、にやりといやらしい笑みを浮かべる。
「おっぱ……」
「くだらないこと言ってないでちゃんと考えろ、ばか。部活のとき外周走らすぞ」
偶然そばを通りかかった沢田が浜田の声を拾い、持っていた出席簿で茶色い頭を叩いた。浜田はいてっ、と声を上げて頭を抑え、教室にくすくすと笑い声が満ちる。
成海は浜田を相手にせず、紙を眺めた。