夏を殺したクラムボン
紙とシャープペンシルの芯が擦れる音と、耳鳴りにも似たせみの歌が脳内で反響する。
数分後にアラームが鳴り、沢田が班の生徒と意見を交換するように、と指示を出した。
窓際の前列の班は、成海と浜田、周、河野 詩織(カワノ・シオリ)という短髪の少女で構成されている。
周と詩織は授業中に言葉を交わすことはあるものの、休み時間や放課後に話している姿を成海は見たことがない。
「誰から?」
成海が淡々とした口調でそう言うと、浜田がプリントの裏に落書きをしながら
「葉月から」
と迷わず周を指名した。
周は文句を言わず、右肩上がりの整った字を淀みなく口に出す。
「私は、クラムボンはかわせみだと思う。魚が通った後でクラムボンは笑っているから。殺したっていうのは……かわせみが水の外で、誰かに殺されたってこと」
「へぇー」
浜田は妙な笑みを作り、シャープペンシルを指先で器用に回した。
「魚を殺したかわせみ、か」
じゃあつぎ河野、と浜田は詩織に話を振る。
「えーと、あたしは泡かなぁ。てかさ成海、この話ほんと意味不明じゃない?」
「えっ」
唐突に話しかけられ、成海はやや驚いて詩織の方を向く。詩織は無邪気な顔で笑った。
「なにが?」
「クラムボンが」
あぁ、とようやく内容を理解した成海は左手で頬杖をつき、ぶっきらぼうに返事をした。
「僕は好きだけど。なんていうか……」
「おーい諒くん、そんな難しく考えなくていいってー。んじゃ俺な」
成海の言葉をぶつ切り、浜田はにっと屈託なく笑った。その横で、詩織が不満そうに彼のことを見ている。