夏を殺したクラムボン
暗く陰鬱とした雨は、6時間の途中から降り始めた。
「7月初めからこの雨はいやねえ」
金髪をなびかせ、若いカナダの英語教師はおおげさに息を吐き、完璧な発音でひとりごちる。
「The day when it rains is melancholy.
(雨の日は憂鬱だわ)」
「発音がうますぎて、なに言ってるか全くわかんねえな。成海はわかるか?」
斜め後ろの席で、浜田が成海に話しかけているのが聞こえた。
「いや……英語はあんまり得意じゃないから」
雨が窓に当たり、ぱたぱたと軽快な音を立てながら幾何学模様を形作っていく。教室のどこかで、傘を忘れてしまった、という声が漏れた。
それが、7月1日のこと。
その日の放課後、周は青い傘を差し、ひとりで帰路を辿っていた。クラブに所属していない生徒はK中学校では15%に満たず、帰り道に同級生の姿は少ない。
……どうして成海はおととい、あんなこと言ったのだろう。決して、成海にとって得になるようなことじゃないのに。
コンクリートの凹みに溜まった水の鏡を避け、水の弾ける音を聞き流した。
車道を通る車が細やかな水しぶきを生み、足元を湿らせる。靴の中に雨水が染み込み、歩くたびに靴下にまで浸透していった。
冷たく、気持ちが悪い感触が両足を包む。
早足で家路を進んでいくと、おとといの6月29日に三毛の猫を見つけた空き地の前を通りかかった。その辺りに目を配るが、あの猫の特徴的な毛並みはどこにも見当たらない。
……今日はどこにいるんだろう。
足首ほどの背丈にまで伸びた草が、雨水を受けてゆらゆらと揺れている。
それはまるで、
周を招く無数の手のようだった。