夏を殺したクラムボン
意味もなく胸がざわついた。見えない何かに引き寄せられるように、周は空き地に近づいていく。
雨の音が徐々に遠ざかっていき、生い茂った草の中に1歩足を踏み入れた瞬間、隠れていた三色が、周の目に飛び込んだ。
横たわる猫。
揺れる視界と、薄らいだ現実感。
黒ずんだ内臓。一文字に裂かれた腹。
だらしなく開かれた口、力なく垂れた舌。
切り離された白い耳。
傷だらけの前足と――。
「あ……」
傘が倒れ、草の上に広がった。全身の筋肉がこわばり、小さな雨粒が全身を濡らしていく。
半歩引き下がると、猫の体は半分ほど草に埋もれて見えなくなった。
「なんで……」
周は傘を掴み、猫の死骸を凝視する。
「うそ……」
少しずつ現実感を取り戻し始めた周は言いようのない恐怖に襲われた。現実から隔絶された空き地を飛び出し、家までの道を走っていく。
焦燥に駆られた彼女の後ろ姿を、同じクラスの河野 詩織が見ていた。
猫の死骸が何度も目の前にちらついた。あのおぞましい物体がおととい体をすり寄せてきた猫だとは信じられなかった。
悪意に触れた周は、雨に打たれることも気にせず駆けていく。
もう夏だというのに、全身の毛が粟立つ感触は夜になるまで消えなかった。