冷徹社長が溺愛キス!?

そんなことを考えながら加藤くんが箸を運ぶ様子をボケっと見ていると、賑やかだったはずの休憩室がなぜか突然静かになっていることに気がついた。
そして、その静けさのあとに女子社員から小さく「キャー」という悲鳴が上がる。

なんだろう……?

麻里ちゃんと加藤くんの顔を見ていたら、ふたりの顔にほんの少し緊張が走ったような気がした。


「社長、お疲れ様です。休憩室なんて珍しいですね」


しゃ、社長――!?

加藤くんの言葉に驚いて、その目線を追いかける。
すると、社長は私たちのテーブルまであと二メートルというところまで近づいていた。

入社して丸五年。
ここで社長を見かけたのは初めてだ。


「従業員がどんなものを食ってるのか偵察だ」


正直、ちょっと嫌な偵察だなと思う。
社長は私たち三人のお弁当箱を上から眺め始めた。


「加藤、それはあれか」

「――社長」


加藤くんはなぜか慌てて、『しっ!』と言わんばかりに人差し指を遠慮がちに立てた。

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