冷徹社長が溺愛キス!?

「私、お見合いするんです」


それは、ひとつの賭けでもあった。
どこかに、社長が引き留めてくれやしないかという邪な気持ちもあったのだ。

自分でもズルイと思う。
他人に自分自身の気持ちの決着をつけてもらおうというのだから。


「見合い?」


社長は少し驚いたように訊ねたあと、からかうような笑みを浮かべた。


「へぇ、奈知が見合いねぇ」


お見合いを止めるどころか、面白がっているようにすら見える。

ズキンと痛む胸。
それは、心臓をひと捻りされたようだった。

専務が恋人じゃなくても、私のことは恋愛対象として見ていないということだ。
この前、ジュエリーショップで選んでいたのは、ほかにちゃんといる恋人にあげるものだろう。
その彼女にプレゼントするために、専務に一緒に見立ててもらったに違いない。

そのとき休憩室のドアが開いた。
私のように飲み物を調達しに来たんだろう。
社長に軽く会釈すると、自販機の前に立った。

彼のことは、これでもう本当に諦めるしかない。
まだ熱いココアを飲み干し、社長に「失礼します」と告げて、休憩室をあとにしたのだった。

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