冷徹社長が溺愛キス!?
◇◇◇
その日は、早々に訪れた。
美容院で着付けとメイクをしてもらい、迎えにきた両親とお見合い会場へお父さんの運転で向かう。
お父さんもお母さんも、やたらとご機嫌だ。
特に父親というものは、娘をなるべく長く手元に置いておきたいものじゃないのか。
そういう心理は、どうもうちのお父さんには当てはまらないらしい。
こっちの気も知らない太陽も、梅雨が明けて嬉しいのか、ここぞとばかりに強い光線を放っている。
柔らかで落ち着きのあるサーモンピンクに、扇や七宝、牡丹や桜といった花模様が描かれた訪問着は、お母さんの強い希望で着させられてしまった。
成人式以来の着物の上、この暑さで気分はさらに滅入る。
覚悟を決めてお見合いに臨むものの、どうしてもパンチパーマがチラついて溜息の連続だ。
「奈知、緊張してるの?」
鼻歌交じりだったお母さんが助手席から振り返る。
ただの緊張ならよかったのに。
「母さん、そりゃあ緊張するだろうよ。将来の婿殿になる人かもしれないんだから」
「そんなに気張らなくていいのよ? いつもの奈知で。それに、嫌だったら断ることもできるんだから」
将来の婿殿、か。
ふたりの会話に適当に頷きながら、窓の外の街並みを横目に眺めた。