冷徹社長が溺愛キス!?

◇◇◇

それから何事もなく一週間が過ぎていった。
両親は性懲りもなく、毎晩電話を掛けてきている。
『本当に断ってよかったの?』というのが、お母さんの開口一番の挨拶だ。
まだ社長のことを諦めきれないようだった。

会社では今のところ社長と顔を合わせることがなく、休憩室から社長が私をただならぬ様子で連れ出したことで賑わっていた噂は、三日経つ頃にはすっかり薄れていた。


「それじゃ、帰ろうか」


退勤時刻を三分ほど過ぎたとき、麻里ちゃんが席を立って私に声を掛ける。
今夜は、麻里ちゃんとふたり、私のアパートで手巻き寿司を食べることになっていたのだ。

会社を出て、駅まであと少しというところだった。
私のスマホが着信を知らせてバッグの中で振動する。
誰だろうと思いながら見ると、それは加藤くんからの電話だった。

連絡先を交換していたにも関わらず、多分掛かってきたのは初めてだ。
いったい何事だろうか。


「もしもし」


麻里ちゃんと立ち止まって、耳にスマホを当てる。


『加藤です。雨宮さん、すぐに会社に戻っていただきたいのですが』

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