冷徹社長が溺愛キス!?

「……はい」


そこで初めて山小屋の中を見た。
電気がなく薄暗い。
私たちが立つ玄関らしきスペースの前には、八畳ほどの空間が広がっていた。
部屋の奥には、使えるのかどうかわからない暖炉。
避難小屋なのか、大きいとは言えない造りだ。

社長は中へ入ると、リュックを下ろして中からタオルを取り出した。


「奈知も拭け」


ヒョイと投げられたタオルをなんとかキャッチし、「ありがとうございます」と受け取る。
『私も持っています』と断るタイミングを逃してしまった。


「参ったな」


タオルで頭をゴシゴシと拭きながら窓から空を見上げて、社長がポツリと呟く。

腕時計を確認すると、もう二時半を回っていた。
そろそろみんなは下山して集合し始まっている頃だ。
私たちは、完全に遅れをとってしまったことになる。

コースに戻れたものの、この天候では下ることもできない。

社長が立つその先に見えた暗い空を恨めしく眺めた。

< 60 / 272 >

この作品をシェア

pagetop