心音詩集 血液のラルゴ
媚薬の音


渇望が潰えた夜に
自我が緩く輪郭を失った
その日から平穏と雑音の中で
それに塗れて生きてきた
遠い日に苦しんだ焦燥の残渣
今夜は眠りを奪っている
懐かしいね
耳から自堕落な音を選んでは
そこに溺れてみる

どうでもいい
でもどこかにあったんだ

壊れかけたみたいな
狂いかけたそれがまだ
どうでもいいのに
細胞の中で眠っていた
かくれていた衝動
懐かしい真夜中の音

午前10時と午後2時を
永遠に繰り返して
時間も空間も白紙のまま
眠らずに夢を見続けた
渇望が潰えた夜のこと
語る相手もいない

だが忘れた頃に滲み出してくる
これが絶望の残り香
毒がかすかに回ってくる
劣情と震えが溢れ出す
まだこうやって
一瞬だけ与えられる唄

どうでもいい
でも手を伸ばした
快楽と狂気を生むのに容易かった日々
苦しみにはもう飽きたけど
むかし胸のどこかで分泌した媚薬
血に紛れ届いた
この指を犯して





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