そろそろ、恋始めませんか?~優しい元カレと社内恋愛~
「終わったかな?」課長が近づいてきて声をかけてきた。


「はい…」
私は、パソコンを閉じその場に立ち上がった。課長は一人ではなかった。


「じゃ、長井君こっちに」
淡いブルーのストライプシャツが、だんだん近づいて私の視界を遮った。


「長井君って…」

もう間違えようがない。彼は、私のすぐ前に立ってる。
下を向いてるうちに、通り過ぎてくれないかな。


「長井優人です。よろしく」
彼は、私の前で頭を下げた。


「久しぶりだね。元気だった?」

優人……

今頃、地球の裏側にいてもう金輪際、二度と顔を見ないと決めた相手が、目の前で笑ってる。


少し痩せたのかな。相変わらず、背高いんだね。

想像してたより、顔つきがシャープになって口元が引き締まってる。
いつの間にか子供っぽい甘さが消えて、落ち着いた大人の男の人になってる。

勝手にポップアップする感情を、
慌てて頭の隅から追いやる。


「亜湖?」
何よ、気安く名前なんか呼ばないで。



彼は、私の前に右手を差し出した。


嬉しそうに満面の笑みを私に向けて、
いきなり、そうやって顔をくしゃっとさせないで。

こいつの営業スマイルって、効くんだから。




その、優しくて甘い声。何度も耳元で聞いた。
今でも体が記憶している。

だから、
いきなり手なんか出さないでよ、抱きしめてくれるのだと思っちゃう。


何度もその首に腕を巻き付けて、不意打ちみたいにして、あなたを脅かすのが好きだった。



でも、それ以上に忘れていない。


忘れもしない…三年前

どうかしたの?

いつもそういって、心配そうに私の顔を探るように見つめる目。
その、同じ目で言ったじゃない。


『ちょっと待って、
仕事辞めて、俺んとこ来るっていうの?
それ、俺と結婚したいってこと?
ごめん、俺そこまで考えてない』


そう言いい残して、
私を置いて赴任先へ行った彼。



私は、

自分の手を差し出すことなく後ずさる。



「ごめん、今、手洗ってないの。汚れてるから」
私は、思わず手を引っ込めた。


「えっ…亜湖?どうしたんだ?」
課長が変な奴だという目で見てる。


「ああ、すみません。よろしくお願いします」
後退りをしながら、消えそうなくらい小さな声しか出なかった。


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