そろそろ、恋始めませんか?~優しい元カレと社内恋愛~
ところが彼の方は、うやむやにするつもりは、まったくないようだった。
「緑川さん、俺、何度も呼び掛けてるんだけどな」
何度か呼びかけられたのは、知ってた。ずっと、無視してたら、由奈ちゃんが気付いて相手してくれるかなと思って、聞こえないふりしてた。
私は、パソコンのスイッチを入れて待機中だ。さっき、誰かさんのせいで電源を落としてしまった。
「ええっ?そうだっけ」
「ちょっといいかな?」
「はい…」
彼が近づいてきたので警戒した。
気もそぞろに答える。
私は、意地を張って彼の方を見ずに、真っ暗な画面から、のんびり浮かび上がるロゴマークをいらいらしながら見ていった。
「亜湖…」
「ええっ?」どこ?
すぐ後ろから声がして、振り返ると、彼の顔とぶつかりそうになった。
私の頭の、ほんの数センチ上に彼の顔がある。
「何よ?優人!」
とっさのことで、名前で呼んでしまった。
「よかった。名前は、覚えててくれてたみたいだな」
「離れてよ。変に思われる」
「だったら、返事くらいしろよ。大人気ないんじゃないか?」
両手で肩を撫でるようにして、最後にぎゅっと抱きしめられるみたいに腕をつかまれた。
振りほどこうとしたけど、上からしっかり捕まえられて、振りほどく事が出来なかった。
「亜湖に会えてよかった」
彼は耳元でそう言って、頭の上に手を添えた。
前によくそうしていたように。
そして、ようやく
私から離れて行った。