そろそろ、恋始めませんか?~優しい元カレと社内恋愛~
私はオーナーとの会話を遮って、店の前に止めた自転車の方を見た。
自転車で来たの、見えたかな。
なんといっても、自転車は楽ですから。
「自転車じゃない、違うよ。亜湖ちゃんの格好、それじゃまるでバイク便のお姉さんだ」
「ああ、これ?」
私は、下を向いて自分の姿を見る。カラスみたい。
「亜湖ちゃんって、もっと明るい色の洋服ってないの?」
私はフャスナーを開け、風避けのために着ていた黒のウィンドブレーカーを脱いで、その場に立ち上がった。
そして、自分では明るい色だと思うグレーのスーツを、オーナーに見せる。
「ほら」
ストレッチタイプのグレーのパンツスーツ。
グレーのほかにもベージュと紺色のスーツが何着かある。自転車に乗るから、スカートははかない。
スーツに合わせて、お化粧も数分で仕上げられる。そんなの自慢にならないか。
オーナーがため息をつく。
「明るいねえ。明るいっていうのはピンクとか水色とかかわいい色のことだよ」
一分でも時間が惜しかった時期は、そうやって時間を作るのもわかるけど、試験勉強が終わってもそのままというのは、いかがなものか。
オーナーの視線がそう伝えてる。