そろそろ、恋始めませんか?~優しい元カレと社内恋愛~




私は、ついこの間まで、国家資格の司法書士試験の受験勉強を続けていた。


司法試験より難しくないって言われてるけど、合格率2%台の一応開業できるほどの難関試験だ。

そして、とうとう去年の11月に、合格を勝ち取ることができた。


受験勉強中、少しでも時間が欲しい私は、家で食事を作る時間を惜しんで、うっかり食事を抜くことがあった。

二食も食べずに過ごして、ふらふらになってこの店に来たこともあった。
そんな私に、オーナーは、

『コーヒーをお願いします』という私に、

『ちゃんと、朝食べてるのか?顔色悪いぞ?うちはモーニングもやってるぞ』と、無理やりトーストとゆで卵を付けてくれた。

その時の、つるんとむけるゆで卵がとてもうれしかった。



失恋した上に、模試の結果が最悪だった私は、卵を食べながら泣いてしまった。

『泣き終わってから食べなさい』
そういう顔は、本当にお父さんみたいだった。


優人に言われたことがショックで、勉強も食事も手に付かなかった。

自分でも、どうすることもできなくて、苦しんでた時に、見ず知らずの人に親切にされたことがとてもうれしかった。


それでも心配なオーナーは、野菜が足りない、パンも小さすぎると、いつの間にか豪華で栄養のある朝食を作って待ってくれるようになってくれた。


勉強中は、食事を待っている間も、テキストを読み込んで頭に入れ、食べながら過去問を解いていた。それを見たオーナーが、トーストをサンドウィッチにしてくれた。

受験勉強中は、予備校のテキストと大皿のオーナーのモーニングプレートが手放せなかった。

今は、勉強からも解放され、食事を済ませゆっくりコーヒーを飲む余裕がある。

今でもそのメニューを出してくれる。その習慣が残っているのはとてもありがたい。



まだ、人通りの少ない通りを窓から眺める。時々、カモメが飛んでるのが見える。
優人がいなくたって、こうしてちゃんと一人でやれる。


ほっと一息ついて、ようやく立ち上がろうという気分になった。

一日の初めに、こうしてゆったりできる時間が私には必要だった。


「行って来ます」
実家の父に言うかわりに、オーナーに声をかけて、私は店を出る。
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