じれったい
「思ったよりも早かったですね」

そう言った玉置常務に、
「武沢さんから、11時にプロダクションへ行くから今すぐにと聞いたものですから」

私は答えた。

「なるほど、武沢さんらしいですね。

ああ、これは手帳です。

秘書課に勤務している方はこれでスケジュールの確認をします」

玉置常務から渡されたのは黒い革の手帳だった。

今まで彼の秘書を務めていた人たちも、常に持ち歩いていたのだろう。

革に傷や擦り切れがあったが、それはそれで味があった。

「ありがとうございます。

大切に使います」

私は玉置常務の手から手帳を受け取った。

「じゃあ、行きましょうか。

車は地下の駐車場に止めています」

へえ、地下もあるんだ。

「はい、わかりました」

私は玉置常務と一緒に常務室を後にした。
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