恋色シンフォニー 〜第2楽章〜
響きが消えると、彼は目を閉じ、上気した顔で少し微笑みながら、大きく息を吐いた。
陶酔しているその顔も、たまらなく色っぽい。
楽器を下ろし、こちらの世界に戻ってくると、私を見て、いたずらっぽく笑った。
「ご満足いただけましたか?」
「……惚れ直しました」
「うん、素直でよろしい」
圭太郎は楽器を片付けながら、言った。
「ねえ、僕が何故寝る前に楽器を弾かないか知ってる?」
「…………」
「それはね、興奮して眠れなくなるからだよ」
「……そうですか……」
「特にさ、パガニーニなんて弾くと、もう、したくてたまらなくなる」
……わかる気がする。
「この2週間、結構きつかった。煩悩で眠れないから、練習して、余計に眠れなくなるっていう、悪循環でさ」
……諸事情ってそれ?
「でも頑張った甲斐はあったかな。綾乃がそんな顔してくれてるから」
「え?」
カチリ、とヴァイオリンケースをロックして、圭太郎がこちらを見た。