クールな准教授の焦れ恋講義
 大学での用事を済ませて職場に戻ると先生に頼まれた資料を探すために奥の関係者以外立ち入り禁止のエリアに足を進める。かび臭さを感じながら私は脚立を使って、慎重に資料の棚に目を走らせた。

 私は先生にとって使い勝手のいい存在なのだ。今まではそれで十分に嬉しかったし、その立場で満足していた。でも先生の席に座っていた西本先生を思い出すとその気持ちが一気に虚しいものになってくる。

 先生の論文や原稿を最初にチェックするのによく任命されていたりしたが、今回は違った。西本先生は先生の大学院時代の先輩で、しかも専攻も似ているから共通の知り合いも多くて、より専門的な話が出来るのだ。

 自然と出たため息は先生の探している資料が見つからなかったという理由だけではない。ゆっくりと脚立を降りて先生に電話しようかと携帯を取り出したが、しばらく考えて止めた。

 まだ二人であの研究室で話していると思うとなんだか、それを電話越しにでも感じるのが嫌だった。

 いつもなら声が聞きたいのもあってささっと電話してしまうのだが、今回は年度末の報告会とその後の懇親会についての出欠も合わせてメールをすることにした。

「早川さん、探し物は見つかった?」

 脚立を片付けて資料室を出たところでるベテランの学芸員の田代さんに声をかけられた。中学生のお子さんがいらっしゃり、私のことも娘のように何かと気にかけてくれる。

 白髪交じりの髪はクリップで束ねられ、淡黄色のカーディガンがここ最近のトレードマークだ。

「残念ながら。うち(資料館)に置いてあるものと少し内容が離れているからか見つかりませんでした」

 苦笑を浮かべて首を横に振ると、田代さんは自分の本題に入る。
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