クールな准教授の焦れ恋講義
「先生、煙草吸った?」

 すると先生が驚いたように目を瞠った。

「そんなに匂いはついてないと思ったんだが、分かるか」

「西本先生と一緒に?」

 すぐさま発した言葉は自分でも驚くほど感情がなかった。

「ああ。俺が煙草吸いたいって言ったら、あの人も一本くれって言うからさ。見てたのか?」

「さっき西本先生とすれ違ったとき先生と同じ煙草の匂いがしたから」

「お前、犬だな」

 呆れたように先生は笑ったけど私は笑えなかった。先生が吸う煙草の匂いだから覚えていただけだ。

「先生、身体に悪いしあんまり煙草吸わないほうがいいですよ」

「お前の言うとおりだとは思うんだけど、なかなかやめるきっかけもなくてな」

「私、煙草あんまり好きじゃないです」

 何をムキになっているのか自分でも分からない。ただ西本先生と仲良く二人で同じ煙草を吸いながら雑談している姿を想像したら堪らなくなった。

 西本先生が悪いわけでも先生が悪いわけでもなんでもない。私一人が子供みたいに勝手に拗ねて。でも黒くて汚くてドロドロした感情が自分の中を支配していく。

「早川の前では極力吸わないようにするよ」

 苦笑する先生の顔にまた胸が痛む。そんな風に言って欲しかったわけでもない。でもなんて言って欲しかったのかも分からない。確かに煙草は嫌いだけど、先生だけは特別だったのに。

 どうして私はもっと上手く立ち回れないのか。見返りを求め始めたらこの関係は壊れてしまうと分かっていたはずなのに。先生はなんでもないかのように返してくれたけど、この気持ちが仕事にまで影響を及ぼしてしまうのが怖い。

 溢れかえりそうになる気持ちをぐっと胸に留めて私は踵を返した。
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