クールな准教授の焦れ恋講義
「巴先生、聞いてくださいよ。早川さんと矢野くん、誕生日が一日違いでどちらも一緒に祝う人がいないって言うから、この際一緒に祝っちゃいなさいよ! って言ってたんです」

「いやいや、矢野さんにだって選ぶ権利はありますよ」

 先生の前で余計なことを言わないで欲しい。矢野さんだってこんなこと言われて困っているに違いない。

「二十六日は仕事ですけど二十五日は早めに上がれそうなんで早川さんさえよければお祝いします? 大学の後輩だしご馳走するよ?」

 まさかの矢野さんからの提案に私はなんて答えていいのか戸惑う。こんなことなら友達にでも祝ってもらう予定だ、と言っておけばよかった。この場で断ってもいいものか。だって、その日は

「早川、折角だから祝ってもらえ。こんなチャンス二度とないぞ」

 さらっと先生の口から出た言葉に私は固まってしまった。

「仕事ばっかりでろくにデートもしたことないんだから、いい機会だろ」

「巴くん、なんだか父親みたい。でも二人とも年が近いしお似合いよね」

 私は何も言えずに奥歯を噛みしめた。何か言いたいのに、言い返したいのに、なんて言えばいいのか分からない。そして笑って同意していた田代さんが先生に尋ねる。

「巴先生は帰られるんです?」

「いえ、ちょっと一服しに外に出てきます」

「私も少し」

 そう言って西本先生も一緒に二人はその場を後にした。

「巴先生も結婚されないのかしら? 西本先生と随分、親しそうな感じだったけれど。今もわざわざ一緒に外に出ていってるし。これは若い二人も負けてちゃ駄目よ」

 そんな感じで再びこちらに話を戻してきたが私の心は鉛みたいに重くなっていた。

 分かっている、田代さんの言い分はもっともだ。スーツを着た先生はいつもよりずっと格好よくて、そしてその隣にいる西本先生とすごくお似合いに見えた。それが自然な組み合わせだ。
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