クールな准教授の焦れ恋講義
「そういえば、早川さんってずっと巴ゼミだったの?」

 精一杯思い浮かべないようにしていた先生の名前を不意に出されて動揺が走る。

「はい。二回生からですけど」

「そっか。いいな、俺のとき巴先生はまだゼミはもっていなかったからさ」

「矢野さんは、どうして先生と?」

 確かに先生が来たとき矢野さんは三回生で先生はゼミを担当していなかった。そんなに関わるほどの接点があったんだろうか。すると矢野さんが持っていたグラスを回して何かを思い出すように話し始めた。

「俺ね。新聞社に就職したくてインターンシップしたり過去問を解いたり色々してたんだけど、小論が苦手でさ。でも新聞社の入社試験って小論が必須なんだよね。就職室に見せに行ったりしてたけど、混んでるし時間かかるしで演習室に残って一人で書いてたんだ。そのとき、通りかかった巴先生が声をかけてくれて」

「先生が?」

 笑顔で頷いて、矢野さんは続けた。

「事情を説明したら小論を添削してくれることになって。丁寧に見てくれて本当に助かったよ。で、内定もらって報告しに行ったときに、巴先生のおかげだから何かお礼させてください! って言ったんだ。そうしたら「俺も添削の練習になったからお礼はいらない。新聞社で頑張れよ」って声をかけてくれて」

「……優しいですね」

「だろ? だから今回担当の記事も絶対にいいものにしたいんだ」

 目をらんらんとさせながら話す矢野さんに私も笑った。本当に先生らしい。

 きっとこのことを話したら、あのときは時間があったから、なんて言うんだろうけど。でも先生はいつも一人ひとりに向き合って接してくれる。そんな先生だから私も好きになったんだ。

 そして私はまた顔をしかめた。さっきから先生のことばかり考えている自分が憎い。

 それからデザートを食べて店を出るまで話題は尽きなかった。時計を見れば二時間もお店で過ごしていたようだ。
< 35 / 90 >

この作品をシェア

pagetop