クールな准教授の焦れ恋講義
 スカートに慣れないヒールを履いたせいで走りづらいし足も痛い。しかも途中でいきなり雨が降り始めた。まさかのタイミングに道行く人々の姿が徐々に消えていく。水を含んだ衣服が重くて、顔に張り付く髪が邪魔だ。それでも私は前に進んだ。

 私は卒業式で告白するまで、先生にとってずっといい学生だった。卒業した後は自分の気持ち出さないようにしてずっといい仕事上の関係者だった。使い勝手のいい存在だった。

 自分が傷つきたくなくて、嫌われたくなくて先生にとってずっと「イイコ」だった。

 息を切らしながらマンションまでやってきてエントランスをくぐると先生の部屋を目指す。ここまで来たのは正直、初めてだ。だってずっと駄目だと言われていたから。

 心臓が早鐘を打ちながらも私はどこか冷静だった。

 震えているのは寒さのせいか緊張のせいなのか。思いきってインターホンを押してみる。もしかしたらいないかもしれない。さっき西本先生と出かけていたし、いたとしても西本先生と一緒かもしれない。

 色々なことを思い巡らせていたら解錠音が響いた。

「はい、って早川!?」

 少しだけ開かれたドアは私を確認すると大きく開けられた。

「どうしてここに? 矢野くんと何かあったのか?」

 こんな風に慌てる先生を見るのは久しぶりだ。そんなことをぼんやり考えていると強引に腕を引かれて玄関に上がらされる。

「とにかくタオル持ってくるから。三月とはいえそのままじゃ風邪引くぞ」

「待ってください」

 奥に戻ろうとする先生の服の裾を掴んで阻止する。

「おい」

「話があるんです」

 静かに告げた私に先生はあからさまに呆れたような顔をした。
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