クールな准教授の焦れ恋講義
「それどころじゃないだろ、今は」

「いいから! 最後くらい私のことで困ってみせてよ!」

 反射的に叫んだその声の大きさに自分でも驚く。目を丸くした先生が視界に入って耐え切れずに私は俯いた。

 ずぶ濡れで突然押しかけてわがままを言って、ものすごく迷惑をかけている。それだけはずっと避けていたのに。

 本当は自分の中で諦めて、何事もなく先生とこれからも接していくのが賢い大人のやり方なのだ。そうしたほうが誰も傷つかずに、誰も嫌な思いをすることもない。分かっているけれど。

「先生、誕生日プレゼントください。先生にしかもらえないんです」

 一息で言い切って私はぐっと奥歯を噛みしめた。

「私のことちゃんと振ってください」

 なんとか泣かずに言葉に出来た。大学を卒業して三年経って先生との距離も少しは縮まった気がした。少しは近づくことが許されるような気がした。

 化粧も上手くなって酒の席にも慣れてきて、仕事も少しずつ任されるようになって。でも、いつまで経っても先生に追いつくことは出来ない。

 そして一途に抱いてきたこの想いを自分で終わらせる術を私は持っていない。優しく突き放されるだけじゃ断ち切ることが出来ない。

 滴り落ちる雨が冷たくて靴先にじんわりと水溜りが出来るのをじっと見つめた。たった数秒の沈黙が突き刺さるように痛くて心臓が壊れそうに煩い。

 しばらくしてから、わざとらしいため息が頭上で聞こえた。最後の最後でこんな子供みたいに駄々をこねて、困らせて。失望させたかもしれない。 

 それでもいい。曖昧な言葉で希望を持ってしまうような私だから、厳しい言葉でもはっきりと言われたほうがいい。
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