クールな准教授の焦れ恋講義
「上がっていけ。今はまだ雨がひどい」

 確かにドアを通しても雨の音が強く聞こえてくる。今日は夜遅くから雨だといっていたが少し早まったようだ。

 それにしても私は思わぬ先生の提案にたじろいだ。家に上がるなんて思ってもみなかったし、先生の言った言葉の意味もよく分かっていない状況でどうするべきなのか判断がつかない。

「ありがとうございます。でも傘をお借り出来たら、このまま帰ります」

「傘は一本しかない」

「大学に置き傘しすぎなんですよ。あれ持って帰ってきたら相当な数ですよ。でも明け方には上がるみたいですし、明日また大学に持って行きますから」

「それにしても、こんな雨がひどいときに帰らなくてもいいだろ」

「でも誰かを家に上げるのは嫌だ、って」

 おずおずと自分の中で引っかかっていたことを口にする。状況が状況とはいえプライベートくらい確保させてくれ、と言っていたのに。すると先生はかすかに笑った。

「さっきまでの強引さはどうした? 困ってみせて欲しいんだろ?」

 自分の発言を改めて持ち出され、胸が苦しくなる。もちろんそんなわけない。

「本当は……困らせたくなんてありませんよ」

 消え入りそうな声で静かに否定すると、先生の手が頭の上に置かれた。

「なら、素直に上がっていけ」

 そう言った先生の声は困っているというより、すごく優しいものだった。
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