クールな准教授の焦れ恋講義
「ご飯、ご馳走になりました。お話もすごく楽しかったです」

「矢野くん、いい奴だろ?」

 無難に答えると先生はマグカップにまた口づけた。その一言で私の心がまた乱れていく。

「……そうですね」

 そう言われたらこう答えるしかない。先生は私になんて言って欲しいんだろうか。先生は矢野さんと会うことを勧めていたし、若者らしくデートでも楽しんでこい、なんて言ってたし。先生は――

「先生は私と矢野さんにどうなって欲しいんですか?」

 ちくちくと痛む心が声にも表れた。随分と棘を含んだ言い方だった。

「逆に訊くけど俺が付き合って欲しいって言ったら付き合うのか?」

「そんなわけないでしょ!」

 なんでもないかのように言う先生に腹が立ってまた感情をむき出しにしてしまった。こういうところが子供扱いされるんだって分かっているのに。

 でも、ここまできたらもう取り繕っても一緒だ。揺れるカップの中身をじっと見つめて机に戻すと、私はその場に正座して先生のほうを向いた。

「先生。私、先生のこと諦めろって言うならちゃんと諦めます。だから、そんな遠まわしな言い方しないでください。やっぱり好きな人にそういうこと言われると辛いんです」

 そこまで言い切って俯く。玄関先では曖昧になってしまったけれど、先生への恋を終わらせるために私はここに来たのだ。しばらくの沈黙の後で先生がマグカップを机に置いた音が響き、私はぐっと握り拳を膝の上で作った。
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