クールな准教授の焦れ恋講義
「悪い」

 いつもよりも低めの声が正面から聞こえて私の心臓は壊れそうに強く打ち始めた。わざわざ距離をつめて、真っ直ぐに向き合ってくれている先生に静かにかぶりを振ることしかできない。

「もうすぐ約束の三年だったから、少し意地悪しすぎたな。大人げなかったよ」

「先生、覚えてたんだ」

 泣きそうになるのを堪えてだったから、呂律もどこかおかしい。さっきも言ってくれたけど、三年前の卒業式で強引に宣言した私の約束を先生も覚えていてくれたのだ。それが意外で嬉しかった。

「覚えてるも何もずっと待ってたよ。早川の気持ちが変わらずに、また告白しにきてくれるのを」

 何を言われたのか理解できずに私の思考は停止した。ゆっくりと頭を上げると思ったよりも近い位置に先生がいてそのことに先に驚く。やがて先生は観念したように肩を落とすと、その唇を動かした。

「大学に就職して右も左も分からずに、講義もいっぱいいっぱいだった俺に『講義面白いですよ』って励ましてくれて、勧めた本も素直に読んできちんと感想も言ってくれて。勉強もしっかりしてくれる。お前は本当に出来た学生だったよ。なんとなく好意を寄せられているんだろうな、と分かってはいたけど、そういう気持ちも卒業式まで一切出さずにいてくれて。気づけばこっちのほうが気になってたよ」

「なに、それ。だったら、なんで、なんで……」

 なんで三年前に私の気持ちに応えてくれなかったの? なんで今日だって矢野さんとご飯を行くように勧めたの? 

 疑問が次々浮かぶのに声にならない。勝手に溢れてくる涙で視界が滲む。もう訳が分からない。先生の行動も先生の言葉も理解出来ない。
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