クールな准教授の焦れ恋講義
「はい、早川です」

「もしもし」

 頑張って作った仕事仕様の声に相手は平坦なトーンだった。おかげで名乗らなかったがすぐに誰だか分かった。

「和弘くん!?」

 思わず声をあげてしまいすぐにボリュームを落とす。澤井さんに連絡先を教えたが和弘くんがこうして私の携帯にかけてくるのは初めてだ。

 咄嗟に部屋を出るかどうか迷ったが先生もさっきこの場で電話をとっていたし、疚しいことも何もないので私はその場に座ってここで会話を続けることにした。

「いきなりで悪いんだけどあんたに言いたいことがあって」

「どうしたの?」

「今日言えなかったけど休み潰してまで店を手伝ってくれてありがとう。手伝いもそうだけど、じいちゃん、毎回あんたに会うのすごく楽しみにしてたんだ。昨日なんて明日が最後だなって寂しそうにしてて」

 なんだかそんな澤井さんを想像すると胸が苦しくなった。私だって古書店で過ごす時間はとても楽しいものだった。

「だからさ、図々しいかもしんないけど手伝えとは言わないから、またちょくちょく会いに来てやってくれないか?」

「もちろん。私だって会いたい」

 力強く答えると電話の向こうで和弘くんが少しだけ笑ったのが分かった。

「今度、資料館にじいちゃんと行くわ。あんたが案内できる日があったら教えて」

「むしろ来る前に言ってくれたら調整するから。来てくれるの待ってるね」

「分かった。俺の携帯から連絡すると思うから登録しといて。あんたとは大学でも会いそうだし、また色々話を聞かせて」

「私でよかったら! お店も大変だと思うけど和弘くんならきっと出来るよ。私で出来ることがあったら遠慮なく言ってね」

 そんな感じでやりとりを終え、終了ボタンを押す。少しだけ沈んでいた気持ちが浮いて先生のほうに顔を向けようとすると、その前にいきなり後ろから抱きしめられた。
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