クールな准教授の焦れ恋講義
「足りないです」

 先生だってきっと分かっているのに。不満の色を浮かべて身体を密着させる。そして先生の肩に手を置いてその唇に自分のを重ねた。先生の少しだけ驚いた表情を視界に入れてから目を閉じる。

 自分からキスしたのはこれが初めてで、スマートなものとは程遠いかもしれない。そっと離れると間髪をいれず今度は先生からキスをしてくれた。それはどこか性急で、角度を変えて何度も唇が重ねられる。

 私とは違ってただ重ねるだけではなく、唇を柔らかく吸われたり軽く舌先で舐められたりと緩急をつけて刺激されて翻弄されていく一方だった。頬に添えられた手が熱い。

 それでも先生はちゃんと私の様子を窺いながら進めてくれる。合間に私と視線を合わせては優しく微笑んでくれる。

 その顔を見ると胸の奥が締めつけられるように切なくなって泣きそうになった。ずっと一途に恋をしてきた気持ちが報われたのだと実感していく。

「キスだけでいいのか?」

 離れた後も先生の顔をじっと見つめているとそんな問いが投げかけられた。散々キスをしておいてそんな風に訊かれるとは思ってもみなかったので返答に困ってしまう。

 自分で言い出したこととはいえ、なんて返事をすればいいのか分からない。確かに私が願ったことはここまでだ、それでも

「もっと先生に愛されたいって言ったらどうなりますか?」

 先生が私のことを好きでいてくれるのが分かったからさっきはもう十分だ、と答えた。でもそれは恋をしていたときの私だ。今はその先を求めてもいいんだろうか。

 私の発言を受けて、先生は困り顔でため息をついてから急に真剣な表情になった。

「どうなるのか受け入れる覚悟があるなら、じっくり愛してやる」

 私は一瞬だけ視線を逸らしてから、すぐに意を決して先生を見つめ返す。

「覚悟なんてとっくに決めてます、もうずっと前から。ずっと先生の特別になりたくて、愛されたかったんです」

 声を震わせながら今までの溢れそうな気持ちを言葉にしてみた。さらに一息ついて

「望んでもいいんですよね? だって恋愛中なんでしょ? 私たち」

 先ほどの先生の言葉を使って明るく返した。すると今度は先生が目を見開いて固まる。そして、ややあってから覚悟を決めるのは俺のほうだな、と苦笑して私を思いっきり抱きしめてくれた。
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