御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
私、身代わりになります
「理咲ちゃん、ほんとにごめんね」


最後の段ボールにガムテープを貼っていた私に、真弓さんが申し訳なさそうに言う。


「せっかく頑張ってもらってたのに、こんなことになっちゃって……」

「何言ってるんですか。私のことより、真弓さんこそ体に気を付けてくださいね」

「私は……。でもそうね。主人のためにも、私が元気ださなきゃね」


そういって真弓さんが笑ってくれたので、なんだかちょっとホッとする。

ここ、真弓さんとご主人が経営していた中井ベーカリーは、町でも評判のパン屋さんだった。

約四か月前、職を探してさまよっていた私が、通りすがりにアルバイトの張り紙をみて応募し、以後とても楽しく働かせてもらっていたお店だ。

しかし、一か月ほど前、ご主人の病気が見つかって入院することになった。

幸い命に別状はないものの、今までのように忙しいベーカリーの仕事は続けられないということで、ご主人の実家に帰ることになったのだ。

当然ベーカリーは閉店、私も職を失うこととなってしまった。

中井ベーカリーのご夫婦にはパンの焼き方や接客の仕方などを丁寧に教えてもらい、慣れない一人暮らしに奮闘する私に何かと気遣いをしていただいた。

そんなふたりとお別れするのはとてもさみしいけれど、ご主人の健康には代えられない。


< 20 / 242 >

この作品をシェア

pagetop