御曹司は身代わり秘書を溺愛しています


けれど、あっという間に壁際に追い詰められて、手首をつかまれてしまう。大きくて、力強くて熱い手が、私の顔の前から手を引き離す。


「見ないで……ください……」


こんな顔をしていたら、私がひとりで動揺していることが、怜人さまにバレてしまう。

溢れる気持ちに翻弄されながら、近くから私を見下ろす怜人さまの顔をようやく見上げた。


今にも泣きだしそうな気持ちで怜人さまを見つめると、真剣だった青い瞳が、ゆっくり、優しげに細められていく。


強くつかまれた手首から離れた指先が、今度はそっと頬に触れる。


「ありがとう。それにごめん。今日のこの失態は、すべて僕の責任だ」


「怜人さま……」


「だけど、あなたもいけない。これから先、あなたが僕のために用意したものは、僕以外の誰にも、絶対に渡さないでください。あなた自身の物もだ。例え髪の毛一本でも。いいですね?」


なんだかすごいことを言われていると思いながら、頭はうまく働かない。

ただ、『練習』とは違うやり方で怜人さまの腕が体に回り、優しく頭をなでられるのを、ドキドキするのとはまた別の場所で、安心で、心地よく感じている。


「理咲、これからは僕に、なんでもちゃんと話してください。あなたがどうしたいのかも、すべて。それに……簡単に僕を奪われないでください。例えば、今日のレイチェルのように」


優しい命令を下した怜人さまの腕が、今度はしっかりと私の体を抱いた。

ずっとこの腕の中にいたい。

ひとときだけ、私はそんなかなわない夢を見た。

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