私を抱きしめて
再会の温度

遠縁の親戚に引き取られて肩身の狭い生活を幾年月。
自立できる歳になると私はすっかり擦れて、絶対に二の舞は踏むまいと決めていた夜の世界へと足を踏み入れていた。
一夜限りの人とも関係を持った。
不思議と涙は出なかったけれど、どうしようもなく虚しくて、身体も心もボロボロだった。
そんな時、明け方に一本の電話。
「斉藤理恵」。
もう聞かないと思っていた母の名前。
訃報だった。
死んでも行くものかと思っていた母の元へ、その足は向かっていた。
もう動くことも目を合わすこともない母の冷たい身体。
私を愛することなく、あれからどんな人生を送ったのかも知るよしはない。
けれどそんな母の亡骸を見て、私はわかった気がした。
母もまた、今の私と同じように淋しい人だったのだと。
人を愛することもできず、人に愛されることもなく、ただ純粋な気持ちで抱きしめられたかっただけなのだろうと。
「お母さん…」
私は子どもの心に戻って、大人の腕で、固い母を抱きしめた。
今までどんなにつらいことがあろうと流れなかった涙が零れ、母の頬に落ちて、まるで母が泣いているようだった。

私は今誓う、必ず、必ず、人を愛せる人間になろうと。
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