あなたの願いを叶えましょう
「今日はご馳走さま。ありがとう」

余計な事を言ってしまいそうになり、私は慌てて改札へ向かおうとするが、名前を呼ばれて反射的に振り向いた。

「また明日」

黒澤波瑠は微笑みながら小首を傾げる。

そういう仕草を私が好ましいと思っている事をきっと知っている。

嫌味な男だ。

「おやすみ」

ぶっきらぼうに私が言うと彼は小さく手を振った。

私は踵を返し、早足で駅の階段を上がる。

ホームに着くとタイミングよく電車がホームに滑り込んで来た。

まいった……。

電車に乗り込みドア付近の手摺にもたれかかるとでっかいため息が出た。

自分の唇にそっと触れてみると、コロンの香りとともに、柔らかな唇の感触が生々しく蘇る。

どうしたことか。

それだけで、心臓は大きく脈打ち、身体が熱くなる。

これは階段を慌てて上がったからでは多分ない。
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