あなたの願いを叶えましょう
黒澤氏は大通りに出てタクシーを拾う。

しつこくメイク直しをしようとする私を後部座席にグイッと押し込むと、そのまま続いて乗り込んだ。

「恵比寿まで」黒澤氏が行き先を告げると車はゆっくり発信する。

メイク道具を取り出そうと鞄に手を突っ込むと、黒澤氏は「いいよ、そのままで」と言って私の手を上からギュッと握る。

「何よ…この手」

ギロリと不信感満載な目で睨みつける。

「いいから大人しく乗っとけって」

小慣れた感じで指を絡ませ、張りのある黒澤の太腿の上に手を置いた。

「今日は手始めに大学時代の友人を誘ってみた。証券会社に勤務の29歳で…」

黒澤波留が本日のお相手の釣書を一通り説明してくれているが、繋いだ手が気になって集中出来ない。

しかも腕を引っ張られているので上半身は密着しあったままだ。

仄かに香るブルガリブラック。

物腰柔らかなこの男ぴったりの香り。

「好きな音楽はロックでよくフェスに行くらしい。冨樫はどんな音楽をよく聞くの?」

平静を装うのに必死で黒澤波留の言葉がまったく頭に入って来ない。
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