ばかって言う君が好き。


 くしゅくしゅと泡の音が聞こえてきた。
ポタン、天井からしずくが落ちてきた音も。

「それにしてもなんであんな怖い顔で、玄野さんのこと話し始めたの?」

「え、怖い顔してた?」

「してましたー!こう眉間にぎゅっとしわが寄って。」
 本当はそんな表情してないのだけど、このぐらいの意地悪…いいよね?

「だって帰ってきてからの倫子の様子がおかしかったから、玄野のこと気にしてるのかなあって。」
 彼がきゅっとシャワーの栓を開けた。

「……ばか。」

「え?何か言った?」

「何でもないですー!」
 私は足場にある少しの段差に座って、お風呂場のドアに寄りかかった。

彼が使うシャワーの音がしばらく続く。目を閉じたまま、私は黙って聞いていた。

きゅっと栓の音がまたすると
「あーさっぱりした。」
 彼の声がまた聞こえてくる。

「倫子もおいでよ、一緒に入ろうよ~。」
 コンコンと背中にノックされる。

「恥ずかしいもん、やだ。」
 私が先にお風呂に入ろうとしたときに、彼が無理やりお風呂場に入ってきてからというもの、彼の熱烈なアタックから逃れず、今の構図ができあがっている。

一緒に入ろうと聞かない直人に、私はお風呂場で彼の話し相手になるということを条件に、直人とお風呂に入ることから逃れた。

直人が乱入してきた時にはもうズボンをを脱いでいたおかげで、私は今、太ももにかかるぐらいのTシャツをワンピースみたく身にまとっているだけ。

「直人、早く上がってきて、風邪ひいちゃう。」
 ズボンをまた履いてもいいのだけれど、また脱ぎ直すというのもちょいと面倒。

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