こんにちは、頭蓋さん。
彼は相変わらずで。少し見方が変わったのは、私だけだ。
頭蓋さんと出かけて数日経つが、関係は何も変わっていない。
私が彼について、私に対し気を遣っているのか観察していることも知らないし、あの日竹永さんと会話したことも知らないだろう。
一つ変わったというか戻ったのは、恋人ではないという点だけだ。
「じゃあ、ご飯も食べたので戻ります。また夜に」
ひらひらと小さく手を振ったあと、深緑のドアに向かう。
外に出てふと横を見ると、今だに慣れないおかしな音のなるインターフォンが目に入った。
これ、初めて来た人に迷惑だと思う。というか驚かないのは大家の麻野さんぐらいじゃないか?
なんて気にする点の一つにもなっているインターフォンだが、もう寿命がきているようで。毎回音は鳴るが押すと外れそうになるのだ。
「頭蓋さん、このインターフォンーー」
絶句した。というか一瞬気味が悪いと思ってしまった。
だってドアと枠の間に足が挟まっている。もちろんもうすぐ夏だから裸足だ。
それから十秒ほど固まっていると、ゆっくりゆっくりドアが開いていく。片足の力でもって。
「ひぃっ」
「ま、待って綾……」
にゅいっと頭を出してきた頭蓋さんは、苦痛に顔を歪めながら言った。
「……俺も行く……っ」