偽りの花嫁

「何も知らないお前がなんの準備が出来ると言うのだ?」


旦那様は私の腕を力づくで引き寄せた。その強い力によろめきそうになる私を旦那様が抱き留められた。こんな失礼な事をしてはと慌てて身を引き頭を下げた。


「その日が来てからお前に話そうと思っていたが、これから俺は出張で暫く屋敷を空ける。だから、今日その話をしておこう。朝食が終わった後にここへ来るんだ」

「ですが、学校が・・・」

「そんなものはどうでもいい。俺の話が最優先だ。それが出来ないのであれば」

「いいえ!直ぐに参ります」



旦那様の機嫌を損ねては私はここから出ることは出来ない。だから、何事においても旦那様を最優先させる。そんなことは分かっているのに、旦那様を怒らせるところだった。


私はここから出ていくことをそれ程に喜んでいるのだろうか?


こんな贅沢な暮らしは慣れないと思っていたのに、2年という月日はあまりにも長すぎた。ここの生活に馴染んでしまって離れられなくなる。


とても恐ろしい事だ。こんなことを考えるのは。



旦那様は私の顔を見てフッと笑みを見せると掴んでいた腕を離してくれた。そして、バスローブを脱ぐと洗面所へと向かって行った。その旦那様の姿は何も身に着けていない姿だった。


初めて見る旦那様の姿に目のやり場に困ったものの、つい、後姿の旦那様の逞しい姿を見てしまっていた。



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