偽りの花嫁
「来月? 来月何かあるのか?」
旦那様はお忘れになっている。私が来月の誕生日に旦那様よりお言葉を頂くことになっていることを。
「私の18歳の誕生日でございます」
「来月がお前の誕生日だったな。忘れるところだった。もう、あと何日もないじゃないか。早いものだな。お前がここへ来てから2年が過ぎるのか」
「旦那様には随分お世話になり感謝しております」
本当に旦那様には感謝しかない。私の2年の奉公だけで借金を帳消しにして下さるのだから。
「そうか、あと数日で誕生日を迎えるのならそろそろ準備が必要だな」
準備? それはここを出て行く準備を始めるということなのだろうか?
飲み終わったコーヒーカップを受け取るとティーワゴンへと乗せ一礼をした。今朝は何時もより話をし過ぎてしまったと早々にこの部屋から立ち去るべきだとティーワゴンを押した。
すると、旦那様はベッドから下りて私の腕を掴んだ。その掴まれた腕が痛くて思わず顔を歪ませた。
「碧、誕生日までに準備を整えておく」
「あの、一人で大丈夫です。何も準備など必要ありません」
借金の為に働きにきた私は、ここを出るのに何も支度をして頂く必要はない。こんな贅沢な暮らしをさせてもらっているのだから、きっと、私の働き程度では借金など帳消しに出来るはずはないのだから。